社内AIを育てるログ活用とは?改善サイクルで精度を高める方法【全8回/第5回】
- テクノロジー
- 2026/1/16
- 2026/1/4
社内AIは、一度作って終わりではありません。使われ方を把握し、改善を重ねることで初めて業務に定着します。その中心となるのが「ログ」です。どんな質問が多いのか、どこで詰まっているのかを知ることで、社内AIは育っていきます。
本記事では、社内AIにおけるログの役割と、ログを活用した改善サイクルの考え方について解説します。
社内AIは「使われてから」が本番
導入直後は完成ではなくスタート地点
社内AIを導入すると、 「これで業務が楽になるはずだ」 という期待が一気に高まります。 しかし実際には、 導入直後の社内AIはまだ完成形ではありません。 むしろ、本当のスタート地点に立った段階だと言えます。
RAGを使った社内AIは、 事前にどれだけ設計や資料整備を行っても、 実際に使われて初めて課題が見えてきます。 どんな質問が多いのか、 どこで回答が止まるのかは、 机上の想定だけでは把握できません。
導入直後に 「思ったより精度が低い」 「期待した答えが返ってこない」 と感じることは珍しくありません。 しかし、それは失敗ではなく、 改善の材料が集まり始めた状態だと捉えるべきです。
重要なのは、 初期の段階で完璧さを求めすぎないことです。 社内AIは、 業務の中で使われ、 フィードバックを受けながら 徐々に精度と実用性を高めていくものです。
そのため、導入時点で意識すべきなのは、 「最初から正解を出すこと」ではなく、 改善できる仕組みを用意しているかという点になります。

ログがなければ改善できない理由
社内AIを改善するうえで欠かせないのが、 ログの存在です。 ログがなければ、 何が起きているのかを正しく把握することはできません。
「使いにくい」 「精度が低い」 といった感想だけでは、 どこをどう直せばよいのか分からないからです。 一方でログがあれば、 具体的な改善ポイントが見えてきます。
例えば、 どんな質問が多いのかが分かれば、 それは社内で困りごとが集中している領域を示しています。 また、どの資料が参照されているかを見れば、 ナレッジとして機能している資料と、 機能していない資料が明確になります。
ログは単なる記録ではありません。 社内AIにとってのログは、 改善のための設計図です。 これを見ずに運用することは、 目隠しをしたまま改善しようとするのと同じです。
RAGを前提とした社内AIでは、 ログをどう取得し、 どう活用するかまで含めて 初めて「運用設計ができている」と言えます。 社内AIを育てるためには、 ログを中心に据えた運用が不可欠です。
社内AIで取得すべきログの種類

質問ログ(何が聞かれているか)
社内AIのログの中で、 最も基本かつ重要なのが質問ログです。 これは、利用者がどんな言葉で、 どんな内容を知りたがっているかを示します。
質問ログを分析することで、 社内で頻発している疑問や、 業務上つまずきやすいポイントが見えてきます。 これは、従来のヒアリングやアンケートでは なかなか把握できなかった情報です。
特に注目すべきなのは、 似たような質問が繰り返し出ているケースです。 それは、 ナレッジとして整理されていない領域が存在するサインだと言えます。
また、質問文の揺れも重要な情報です。 同じ内容を指していても、 人によって使う言葉や表現は異なります。 質問ログを見れば、 社内で使われている実際の言葉を把握できます。
この情報は、 資料の書き直しや、 検索精度の改善に直接役立ちます。 質問ログは、 社内AI改善の出発点になるデータです。
参照ログ(どの資料が使われたか)
RAGを前提とした社内AIでは、 参照ログも欠かせません。 これは、回答生成の際に どの資料が参照されたかを記録するログです。
参照ログを見ることで、 実際に役立っている資料と、 ほとんど使われていない資料が明確になります。 これは、資料整備の優先順位を決める際の 重要な判断材料になります。
また、意図しない資料が参照されている場合、 検索条件や資料の構造に問題がある可能性があります。 参照ログは、 RAGの設計が正しく機能しているかを確認する チェックポイントにもなります。
参照頻度が高い資料は、 社内AIにとってのコアナレッジです。 一方で、参照されない資料は、 内容が不足しているか、 そもそも対象として適切でない可能性があります。
このように、 参照ログは「資料の価値」を可視化する役割を果たします。 ナレッジ全体を俯瞰するためにも、 必ず取得しておきたいログです。
未回答・低信頼ログの重要性
社内AIのログの中でも、 特に価値が高いのが、 未回答や低信頼のログです。 これらは、AIが自信を持って答えられなかったケースを示します。
一見するとネガティブな情報に見えますが、 実は改善のヒントが最も詰まっている領域です。 なぜ答えられなかったのかを分析することで、 資料不足や表現の曖昧さが明確になります。
未回答が多い質問は、 社内でニーズがあるにもかかわらず、 ナレッジとして整備されていないテーマです。 これは、資料整備の優先候補になります。
また、低信頼ログは、 引用できる根拠が弱いことを示しています。 この場合、 資料の追記や構造整理によって 回答の質を大きく改善できる可能性があります。
未回答・低信頼ログは、 社内AIにとっての成長課題リストです。 これを活用できるかどうかが、 運用の成否を分けるポイントになります。
ログから見える「社内の困りごと」

想定外の質問はナレッジ不足のサイン
社内AIのログを見ていると、 事前には想定していなかった質問が 数多く投げられていることに気づきます。 これは、社内AIが失敗している証拠ではありません。 むしろ、 現場のリアルな困りごとが可視化された状態だと言えます。
多くの企業では、 「よくある質問」は想定できますが、 実際の業務では その周辺や派生的な疑問が数多く発生します。 ログに現れる想定外の質問は、 そうした暗黙の業務知識が 資料化されていないことを示しています。
例えば、 業務ルール自体は規程に書かれていても、 「この場合はどう判断すればよいのか」 「例外に当たるかどうかの判断基準」 といった部分が明文化されていないケースは少なくありません。
想定外の質問が繰り返し現れる場合、 それは一部の人が経験や勘で対応している業務が、 他の人にとっては分かりにくい状態にあることを意味します。
こうしたログをもとに、 資料を追記・整理していくことで、 社内AIはもちろん、 業務そのものの属人化を解消することにもつながります。
参照されない資料が示す問題点
ログ分析で見落とされがちですが、 参照されていない資料も重要な示唆を与えてくれます。
長年蓄積されてきた社内資料の中には、 存在しているものの、 実際の業務ではほとんど使われていないものがあります。 RAGの参照ログを見ると、 そうした資料がはっきりと浮かび上がります。
参照されない理由はさまざまです。 内容が古い場合もあれば、 文章が分かりにくい、 前提条件が省略されている、 といった理由も考えられます。
重要なのは、 参照されない資料を 「不要」と即断しないことです。 多くの場合、 書き方や構造を見直すことで再利用できる可能性があります。
一方で、 どうしても業務に合わない資料は、 RAGの対象から外すという判断も必要です。 ログを使えば、 ナレッジの取捨選択を 感覚ではなくデータに基づいて行えます。
このように、 ログは単にAIの改善だけでなく、 社内ナレッジ全体の棚卸しにも役立つ情報源になります。
ログを改善につなげる具体的アクション

資料の追記・書き直し
ログを分析して最初に取り組むべき改善が、 資料の追記や書き直しです。 特に、未回答や低信頼の質問が多いテーマは、 社内ナレッジが不足している可能性が高い領域です。
この場合、 AI側の設定を調整する前に、 まず資料そのものを見直すことが重要です。 判断基準が曖昧になっていないか、 前提条件が省略されていないかを確認します。
ログに現れた質問文をそのまま参考にして、 資料にQ&A形式の補足を追加するのも有効です。 現場で使われている言葉を取り入れることで、 検索精度と回答の分かりやすさが向上します。
資料の追記は、 大規模な改訂である必要はありません。 よく聞かれている部分から少しずつ 手を入れていくことが、 無理のない改善につながります。
質問文の揺れを吸収する工夫
質問ログを見ていると、 同じ内容でも表現が大きく異なるケースが多くあります。 これは、人によって言葉の使い方が違うため、 避けられない現象です。
この揺れを放置すると、 一部の表現では答えられるのに、 別の表現では未回答になるといった問題が発生します。 そこで重要になるのが、 質問文の揺れを吸収する設計です。
具体的には、 資料側に同義語や言い換え表現を補足したり、 よく使われる言葉を見出しや本文に反映させたりします。 ログは、そのための材料を提供してくれます。
この対応は、 検索精度の調整だけでなく、 資料そのものを社内で使われている言葉に近づける効果もあります。 結果として、 社内AIと利用者の距離が縮まります。
対象外とすべき質問の整理
ログ分析を進めると、 社内AIが答えるべきではない質問も見えてきます。 例えば、 個人判断が必要なケースや、 その場の状況によって結論が変わる質問です。
こうした質問に対して、 無理に回答精度を上げようとすると、 誤解やトラブルの原因になります。 そのため、 対象外とする質問の整理も重要な改善アクションです。
RAGでは、 「資料に根拠がない場合は答えない」 という設計が可能です。 ログをもとに、 どの領域をAIに任せ、 どこからは人が対応するかを明確にしていきます。
この線引きを行うことで、 社内AIは無理をしない、信用できる存在として運用できます。 ログは、その判断を支える重要な材料になります。
ログ運用でよくある失敗パターン

ログを溜めるだけで見ない
社内AIの運用で非常によくある失敗が、 ログを取得しているだけで、実際には見ていないという状態です。 ログは自動で溜まっていくため、 「とりあえず取っているから大丈夫」 と安心してしまいがちです。
しかし、ログを確認しなければ、 改善のきっかけは何も得られません。 質問が増えているのか減っているのか、 未回答が多いのか少ないのかも分からないまま、 運用だけが続いてしまいます。
結果として、 「最初は使われていたが、いつの間にか使われなくなった」 という状態に陥ります。 これは、精度の問題ではなく、 改善サイクルが回っていないことが原因です。
ログは、 定期的に確認する前提で初めて価値を持ちます。 月に一度でもよいので、 ログを見る時間を業務として組み込むことが重要です。
完璧を目指しすぎて止まる
もう一つの典型的な失敗が、 最初から完璧な社内AIを目指してしまうことです。
ログを分析すると、 改善点が次々と見えてきます。 そのすべてを一度に直そうとすると、 作業量が膨らみ、 結局どこから手を付ければよいか分からなくなります。
その結果、 「もう少し整理してから」 「全部直してから公開しよう」 と判断が先送りされ、 改善が止まってしまいます。
社内AIの改善は、 小さな修正を積み重ねることが重要です。 ログをもとに、 影響が大きいポイントから順に対応していくことで、 無理なく改善を続けられます。
完璧を目指すよりも、 「昨日より少し使いやすくなった」 状態を作り続けることが、 社内AIを定着させる最大のポイントです。
まとめ:ログは社内AIの成長記録
RAG運用は改善サイクルを回せるかがすべて
第5回では、 社内AIを導入した後に欠かせないログを中心とした改善運用について見てきました。 ここで重要なのは、 ログを単なる記録として扱わないことです。
質問ログは、 現場が何に困っているのかを教えてくれます。 参照ログは、 どの資料が役立っているのか、 どの資料が機能していないのかを可視化します。 未回答や低信頼のログは、 社内AIが成長するための課題を示しています。
これらのログはすべて、 社内AIの成長記録です。 ログを見て改善し、 改善した結果をまたログで確認する。 このサイクルを回せるかどうかが、 社内AIが定着するかどうかを左右します。
RAGを前提とした社内AIは、 一度作れば完成するシステムではありません。 資料を整備し、 ログを見て改善し続けることで、業務にフィットしたナレッジツールへと育っていきます。
逆に言えば、 ログを活用できない社内AIは、 どれだけ高度な仕組みを持っていても、 やがて使われなくなってしまいます。 RAG運用の本質は、 改善を続けられる仕組みを作ることにあります。
セキュリティと権限設計
第5回では、 社内AIを「育てる」ためのログ活用と運用設計を解説しました。 しかし、社内AIを業務で使ううえで、 もう一つ避けて通れないテーマがあります。 それがセキュリティと権限設計です。
誰が社内AIを使えるのか。 どの資料にアクセスできるのか。 ログは誰が見られるのか。 これらを曖昧にしたままでは、 社内AIは安心して使われません。
次回は、社内AIを安全に使うためのセキュリティ設計と権限管理をテーマに、 RAG前提で考える実務的なポイントを整理します。 社内AIを本格運用するための、 最後の重要ピースです。
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