社内AIを支えるRAGとは?ナレッジ活用で失敗しないための基本設計【全8回/第2回】

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社内AIの導入に取り組む企業は年々増えていますが、その多くが 検証までは進んだものの、業務では使われなくなった という壁に直面しています。 AI自体は動いているはずなのに、現場では結局、人に聞く運用に戻ってしまう。 この状況は、決して珍しいものではありません。

このとき原因として挙げられがちなのが、 「AIの精度が足りない」 「もっと学習させる必要がある」 といった技術面の問題です。 しかし、実際の失敗事例を丁寧に見ていくと、 問題の本質は精度ではなく、社内AIの設計と運用 にあることが分かります。

本記事では、社内AIがなぜPoC止まりになりやすいのか、 なぜ現場から信用されなくなるのかを、 業務視点・運用視点から整理していきます。 RAGという言葉や仕組みを理解する前に、 まず「なぜ従来の社内AIが失敗してきたのか」を押さえることで、 次に取るべき設計の方向性が自然と見えてくるはずです。

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なぜ社内AIは「使われない」で終わるのか

PoCで止まる会社に共通する落とし穴

社内AIの取り組みで非常によく見られるのが、PoC(検証)までは進んだが、業務では使われないまま終わるというケースです。 技術的には「動いている」「それなりに答えが返ってくる」状態にもかかわらず、現場には定着しません。

このとき、多くの企業は「AIの精度がまだ足りない」「もう少し学習データを増やす必要がある」と考えがちです。 しかし、実際には精度以前の段階で設計を誤っていることがほとんどです。

PoC段階では、技術検証が主目的になるため、どうしても 「どんな質問に答えられるか」 「どれくらい自然な文章を生成できるか」 といった点に注目が集まります。 一方で、業務で使う前提の設計は後回しにされがちです。

例えば、 「誰が、いつ、どんな目的で使うのか」 「業務のどの場面で参照されるのか」 「答えが間違っていた場合、どう扱うのか」 といった点が曖昧なままPoCが進むと、検証は成功しても実運用に進めません。

結果として、PoCは「技術的に面白いデモ」で終わり、 業務フローの中に組み込まれないAIが出来上がってしまいます。 これが、社内AIが「PoC止まり」になる最大の落とし穴です。

社内AI

現場が「結局、人に聞く」に戻る瞬間

もう一つ、社内AIが使われなくなる典型的なパターンがあります。 それは、一度でも「信用できない体験」をしてしまうことです。

例えば、現場の担当者が業務中に社内AIへ質問し、 それらしい答えは返ってきたものの、 「本当にそれでいいのか分からない」 「根拠が示されていない」 と感じたとします。

このとき、担当者は最終的に 上司や詳しい人に聞き直す という行動を取ります。 そして次からは、 「急いでいるときは、最初から人に聞いた方が早い」 という判断に戻ってしまいます。

一度こうした体験が起きると、 社内AIはあっても使われない存在になります。 UIがどれだけ整っていても、回答文が自然でも、 業務判断に使えないと認識された時点で役割を失うのです。

重要なのは、これはAIの精度そのものの問題ではないという点です。 現場が求めているのは、 「それっぽい答え」ではなく、 業務として安心して使える回答だからです。

社内AIが「結局、人に聞く」に戻ってしまう背景には、 信用を担保する設計が最初から用意されていない という共通点があります。 この設計を後付けしようとすると、難易度は一気に上がります。

失敗の原因は「精度」ではなく「運用」にある

精度が上がっても信用されないパターン

社内AIがうまくいかない理由として、最も誤解されやすいのが 精度が足りないから使われないという考え方です。 確かに、明らかに間違った回答を返すAIは問題ですが、 多くの失敗事例では、精度そのものは一定水準に達しています。

それにもかかわらず使われないのは、 回答の「正しさ」を現場が判断できないからです。 業務でAIを使う場面では、 「それっぽい文章」よりも 「なぜその答えになるのか」 が重要になります。

例えば、社内規程や契約条件に関わる質問では、 回答が正しいかどうかをその場で確信できなければ、 業務判断には使えません。 どれだけ自然な日本語で書かれていても、 根拠が分からなければ、最終的には人が確認することになります。

この状態が続くと、現場では 「AIに聞く → 結局人に確認する」 という二度手間が発生します。 結果として、 AIを使うこと自体が非効率だと判断されてしまいます。

重要なのは、これは精度の問題ではなく、 信用を担保する仕組みが用意されていないという点です。 精度を上げる努力だけを続けても、 この問題は解決しません。

社内AI活用

更新されないナレッジは“負債”になる

もう一つ、運用面で見落とされがちなのが、 ナレッジの更新です。 社内AIは一度作って終わりではなく、 資料やルールが変われば、それに合わせて更新される必要があります。

しかし実際には、 「初期データを取り込んだまま放置される」 「誰が更新を担当するのか決まっていない」 といったケースが非常に多く見られます。

この状態が続くと、社内AIは 古い情報を自信満々に返す存在になります。 現場で一度でも 「AIの答えが現行ルールと違っていた」 という経験が起きると、信用は一気に失われます。

しかも厄介なのは、 間違いに気づきにくいケースです。 利用者が気づかないまま古い情報をもとに判断してしまうと、 業務上のトラブルに発展する可能性もあります。

そのため、更新されないナレッジは 資産ではなく“負債”になります。 社内AIを安全に使うためには、 「いつ・誰が・どの資料を更新するのか」 を運用として明確にしておくことが不可欠です。

社内AIの成否を分けるのは、 最新モデルを使っているかどうかではありません。 更新を前提に回し続けられる運用設計があるかどうかが、 結果を大きく左右します。

社内AIが信用を失う3つの場面

根拠が示されない

社内AIが最も早く信用を失う場面が、回答に根拠が示されないケースです。 文章としては正しそうに見えても、 「どの資料をもとに判断したのか」 「どこにそう書いてあるのか」 が分からなければ、業務では使えません。

特に、社内規程や契約条件、手続きルールなどに関する質問では、 根拠が示されない回答は“使ってはいけない回答”と同義になります。 現場の担当者は、最終的な責任を自分で負うため、 出所の分からない情報をそのまま判断材料にすることはできないからです。

この状態が続くと、 「AIは便利そうだけど、結局は確認が必要」 という認識が広がります。 その結果、社内AIは 調べ物の入口にすら使われなくなる という状況に陥ります。

社内AIにおいて重要なのは、 正解を“断言すること”ではありません。 どの資料の、どの部分に基づいているのかを示すことが、 信用を支える前提条件になります。

社内AI活用

部署ルールとズレる

次に多いのが、部署ごとのローカルルールと回答がズレるケースです。 会社全体の規程は同じでも、 実際の運用は部署や業務内容によって細かく異なることが少なくありません。

例えば、 「原則はこうだが、この部署では例外対応している」 「実務ではこの手順を省略している」 といった暗黙のルールが存在します。

社内AIが全社共通資料だけを参照している場合、 こうした現場ルールを反映できず、 “理屈としては正しいが、現場では使えない回答” を返してしまいます。

このズレを経験した現場は、 「このAIはうちの仕事を分かっていない」 と感じるようになります。 その結果、社内AIは 自分たちの業務には合わないツール として扱われるようになります。

部署ルールのズレは、 AIの性能の問題ではなく、 どの資料を対象にするかという設計の問題です。 対象資料の選定を誤ると、 どれだけ精度を上げても、この問題は解消されません。

情報が古い

三つ目は、情報が古いまま更新されていないケースです。 これは、社内AIに対する信用を一気に失わせる要因になります。

業務ルールや社内規程は、 法改正や組織変更に伴って定期的に変わります。 にもかかわらず、社内AIが 過去の資料をもとに回答し続けていると、 現場では混乱が生じます。

特に危険なのは、 「一見正しそうだが、実は古い」 という回答です。 利用者が誤りに気づかないまま業務を進めてしまうと、 後から大きな手戻りやトラブルにつながる可能性があります。

このような経験が一度でも起きると、 社内AIは 信用できない存在として認識されます。 そして次からは、 「AIの答えは参考程度にしておこう」 という距離感で扱われるようになります。

社内AIが信用を維持するためには、 情報が常に最新であるという前提を 仕組みとして担保する必要があります。 更新が運用として回らないAIは、 長期的には必ず使われなくなります。

成功企業が最初に固める“運用4点セット”

① 対象資料の決め方(範囲と責任者)

社内AIを安定して運用している企業に共通しているのは、 最初に「何を対象にするか」を明確に決めているという点です。 ここで言う対象とは、単に「社内にある資料すべて」ではありません。

むしろ成功している企業ほど、 「まずはこの範囲だけ」 「この業務に関わる資料だけ」 と対象を絞っています。 対象を広げすぎると、情報の品質がバラつき、 回答の一貫性や信用性が下がってしまうからです。

また、資料の範囲と同時に重要なのが、 その資料の責任者を決めることです。 「このマニュアルは誰が最新性を担保するのか」 「この規程が変わったら誰が反映するのか」 を明確にしておかないと、更新は必ず止まります。

社内AIの対象資料は、 内容だけでなく“管理できるかどうか”を基準に選ぶ必要があります。 ここを曖昧にしたまま進めると、 後から運用が破綻する原因になります。

② 更新反映(いつ・誰が・どう再取り込みするか)

次に重要なのが、更新をどう反映するかという運用設計です。 社内資料は必ず更新されます。 その前提に立たずに作られた社内AIは、 時間とともに確実に使われなくなります。

成功している企業では、 「資料が更新されたら、いつ再取り込みするのか」 「誰がその作業を行うのか」 「手動なのか、自動なのか」 といった点を最初から決めています。

特に重要なのは、 更新作業を“特別な作業”にしないことです。 担当者しか分からない手順や、 複雑な操作が必要な仕組みは、必ず形骸化します。

社内AIの更新は、 日常業務の延長として回せる形にしておくことが、 長期的な運用には欠かせません。

③ 根拠(引用)と「分からない」設計

三つ目は、回答の出し方そのものの設計です。 成功している社内AIでは、 必ずと言っていいほど 根拠(引用)をセットで提示する設計が採用されています。

これにより、利用者は 「なぜこの答えになるのか」 「どの資料を確認すればいいのか」 をその場で把握できます。 結果として、AIの回答を 業務判断に使いやすくなるのです。

同時に重要なのが、 「分からない」と答える設計です。 資料に根拠がない場合でも、 それらしい文章を生成してしまうと、 かえって信用を損ないます。

成功企業では、 「資料上、該当情報が確認できません」 と返すことを 正しい挙動として扱っています。 この設計があることで、 社内AIは「嘘をつかない存在」として認識されます。

④ ログと改善(質問から資料を育てる)

最後のポイントが、ログの活用です。 社内AIを導入して終わりにせず、 「どんな質問がされているか」 「どの資料がよく参照されているか」 を継続的に確認します。

ログを見ることで、 「資料が足りていない分野」 「分かりづらい説明」 「誤解を生みやすい表現」 が浮かび上がってきます。

成功している企業では、 このログをもとに 資料そのものを改善しています。 その結果、AIの回答精度だけでなく、 社内ナレッジ全体の品質が向上します。

社内AIは、 使われることで完成度が上がる仕組みです。 ログを活かして改善を回せるかどうかが、 成功と失敗を分ける大きな分岐点になります。

小さく始めて成功率を上げる設計のコツ

社内AI活用

最初の対象は「社内FAQ」からが強い理由

社内AIを初めて業務に導入する際、成功確率を高めるために重要なのが、 最初から大きく作りすぎないことです。 多くの失敗事例では、 「全社の資料をまとめて取り込もうとした」 「最初からあらゆる質問に答えさせようとした」 という共通点が見られます。

最初の対象として特に相性が良いのが、 社内FAQや問い合わせ対応に近い領域です。 これらは、 「よく聞かれる質問が決まっている」 「答えが資料として整理されている」 という特徴があります。

社内FAQ領域から始めることで、 「AIに聞くと早く答えが返ってくる」 「人に聞かなくても自己解決できる」 という体験を現場に提供しやすくなります。 この小さな成功体験が、 社内AIへの信頼を作る第一歩になります。

また、FAQは正解が比較的明確なため、 根拠(引用)との相性も良い領域です。 どの資料のどの記述を参照しているかを示しやすく、 運用設計の練習にもなります。

最初から高度で曖昧な判断を求める業務に使うよりも、 「答えが決まっている仕事」から始めることで、 社内AIは自然と受け入れられやすくなります。

評価指標(KPI)を先に決める

もう一つ重要なのが、評価指標(KPI)を先に決めておくことです。 社内AIは、導入しただけでは 「成功しているのかどうか」 が分かりにくい取り組みです。

そのため、 「どの状態になったら成功と判断するのか」 を事前に定義しておく必要があります。 例えば、 「問い合わせ件数がどれだけ減ったか」 「自己解決率がどれくらい上がったか」 といった指標が考えられます。

評価指標を決めずに進めてしまうと、 「なんとなく便利そう」 「一部の人は使っている」 といった曖昧な評価になりがちです。 その結果、経営層や関係部署に 価値を説明できなくなるという問題が起きます。

成功している企業では、 定量的な指標に加えて、 「現場の声」もあわせて確認しています。 「探す時間が減った」 「判断が早くなった」 といった定性的な変化も、 重要な成果として扱われます。

社内AIは、 成果を可視化できて初めて継続投資の対象になります。 小さく始めるからこそ、 評価指標を明確にし、 改善につなげることが重要です。

まとめ:社内AIは“作る”より“回す”が本番

運用が回る設計が、結果的に精度も上げる

ここまで見てきた通り、社内AIが失敗する原因の多くは、 AIモデルの性能や精度そのものではありません。 実際には、 「どう運用するか」 「業務の中でどう使われるか」 という設計が成否を大きく左右します。

精度を高めること自体は重要ですが、 それだけでは社内AIは定着しません。 根拠が示されない、 情報が古い、 更新されない、 といった状態が一つでも起きると、 現場はすぐに距離を置いてしまいます。

一方で、成功している社内AIは、 完璧な精度を目指していないという共通点があります。 それよりも、 「どこまで分かるか」 「どこからは分からないか」 を明確にし、 安心して使える仕組みを優先しています。

運用が回る設計ができていれば、 ログを通じて改善点が見え、 資料も整理され、 結果として回答の精度も自然と上がっていきます。 精度は“結果”としてついてくるものなのです。

根拠(引用)が社内AIの信用を支える

第2回では、 社内AIがなぜ失敗するのか、 そして成功企業が何を重視しているのかを見てきました。 その中で繰り返し登場したキーワードが、 「信用」です。

社内AIが業務で使われるかどうかは、 「この答えを信じてよいか」 という一点に集約されます。 そして、その信用を支える最も重要な要素が、 根拠(引用)です。

次回では、 社内AIにおける 「根拠を示すとはどういうことか」 「なぜRAGという考え方が必要になるのか」 を、ビジネス視点で掘り下げていきます。

社内AIを 単なるチャットツールで終わらせないための核心 が、ここにあります。

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