社内AIで資料を活用するには?RAG前提の取り込みと更新設計【全8回/第4回】
- テクノロジー
- 2026/1/13
- 2026/1/4
社内AIを導入する際、多くの企業が最初につまずくのが「社内資料をどう扱うか」という問題です。RAG前提の社内AIでは、どの資料を、どの単位で、どのように取り込むかによって、回答の品質が大きく変わります。
また、取り込みは一度きりではなく、更新を前提に設計しなければ、社内AIはすぐに使われなくなります。
本記事では、社内資料をAIで活用するために必要な取り込み設計の考え方と、更新を前提とした運用のポイントを整理します。
社内AIは「資料の質」で8割決まる

AI以前に、資料の状態が成果を左右する
社内AIの精度や使い勝手について議論するとき、多くの場合は 「どのAIモデルを使うか」 「検索精度をどう上げるか」 といった技術的な話題に目が向きがちです。 しかし、実務の現場で成果を左右する最大の要因は、 AIそのものではなく、社内資料の状態です。
RAGを前提とした社内AIは、 社内資料を検索し、その内容をもとに回答を生成します。 つまり、AIは社内資料に書かれている以上のことは答えられないという前提があります。
資料が曖昧であれば、回答も曖昧になります。 資料が古ければ、回答も古くなります。 資料に矛盾があれば、AIはその矛盾をそのまま反映してしまいます。
このため、 「AIの精度が出ない」 「回答が使いにくい」 と感じたとき、その原因をモデルや検索ロジックに求める前に、 資料そのものの状態を疑う必要があります。
実際、社内AIの導入がうまくいっている企業では、 AIの話よりも先に 「どの資料をどう整備するか」 「どこまでをAIに任せるか」 といった議論に多くの時間を割いています。
精度が出ない原因はモデルではなく資料にある
社内AIのPoCや初期導入でよく聞く不満の一つが、 「思ったより精度が出ない」というものです。 しかし、その多くはモデル選定の失敗ではありません。
例えば、同じ内容が 複数の資料に微妙に違う表現で書かれている場合、 AIはどれを正解として扱うべきか判断できません。 結果として、 回答がブレたり、慎重すぎる表現になったりします。
また、業務ルールの前提や判断条件が 文章の中に暗黙的に書かれている場合、 AIはそれを正しく読み取ることができません。 人であれば文脈から理解できる部分も、 AIにとっては書かれていない情報として扱われます。
このような状態で 「検索精度を上げよう」 「モデルを変えよう」 といった対策をしても、根本的な解決にはなりません。 入力となる資料が整理されていなければ、 どれだけ高度な仕組みを使っても限界があります。
社内AIの精度を上げたいのであれば、 最初に取り組むべきなのは 資料を“AIが理解しやすい形”に整えることです。 これは技術的な作業ではなく、 ナレッジ設計・業務設計の領域に近い取り組みだと言えます。
RAGに向いている社内資料・向いていない資料

向いている資料の特徴(規程・FAQ・マニュアル)
RAGを前提とした社内AIに向いている資料には、いくつかの共通点があります。 最も重要なのは、判断基準や結論が明確に書かれていることです。
代表的なのが、社内規程、業務マニュアル、FAQといった資料です。 これらは、 「この条件の場合はこうする」 「原則はこうだが、例外はこう」 といった形で、判断の軸が文章として整理されています。
RAGでは、資料の一部を検索し、その内容を根拠として回答を生成します。 そのため、文章だけを切り出しても意味が通じる資料は、 非常に相性が良いと言えます。
特にFAQ形式の資料は、 質問と回答がセットになっているため、 社内AIの初期導入に向いています。 「どんな質問が来るか」 「どう答えるべきか」 があらかじめ想定されているため、 検索精度や引用の設計もしやすくなります。
また、マニュアル類も、 手順が段階的に書かれている場合は有効です。 「この作業はどの資料を見ればよいか」 が明確になっていることで、 社内AIは確認作業を支援するツールとして機能します。
向いていない資料の特徴(属人メモ・曖昧な文章)
一方で、RAGに向いていない資料も存在します。 代表的なのが、 個人のメモや属人的なノウハウ資料です。
これらの資料は、 「この場合はこうすることが多い」 「だいたいこのくらい」 といった表現が多く、 判断基準が明確に書かれていないことが少なくありません。
人が読む分には問題なくても、 RAGでは文章の曖昧さがそのまま回答に反映されます。 その結果、 断定を避けた回りくどい回答になったり、 質問に対して核心を突かない返答になったりします。
また、前提条件が省略されている資料も要注意です。 「分かっている人向け」に書かれた文章は、 AIにとっては前提が欠けた不完全な情報になります。
RAG向けに資料を整備する際は、 すべての資料を無理に使おうとせず、 向いていない資料は最初から対象外にするという判断も重要です。 後から書き直したり、整理したりすることで、 初めてRAGに適した資料になるケースも多くあります。

社内資料をRAG向けに整備する基本ルール
一文一義を意識する
RAGを前提とした社内AIでは、 一文に一つの意味だけを書くという原則が非常に重要になります。 人が読む資料では、多少情報が詰め込まれていても文脈で理解できますが、 AIにとってはそれが大きなノイズになります。
例えば、 「原則Aだが、条件Bの場合はCとなり、ただしDのケースではEを優先する」 といった文章は、人には分かりやすくても、 RAGではどこを引用すべきか判断しづらくなります。
このような場合は、 原則、条件、例外を文として分けることで、 AIが扱いやすい資料になります。 一文一義を意識するだけで、 検索精度や引用の分かりやすさは大きく改善します。
資料整備というと大掛かりな作業に感じられますが、 すべてを書き直す必要はありません。 重要な判断に関わる部分から文章の構造を見直していくことが現実的です。
例外・補足・注意事項を分離する
社内規程やマニュアルでは、 原則と同じ文章の中に、 例外や注意事項が混在していることがよくあります。 これはRAGにとって扱いにくい構造です。
原則と例外が一体化していると、 検索結果として切り出された際に、 どちらが主なのか分からなくなります。 その結果、回答が曖昧になったり、 本来は例外である内容が強調されたりします。
RAG向けの資料では、 原則、例外、補足、注意事項を明示的に分けて記述することが重要です。 見出しや箇条書きを使って構造を分けるだけでも、 AIが情報を正しく参照しやすくなります。
この整理は、 AIのためだけでなく、 人が読む資料としても可読性を高めます。 結果として、 社内ナレッジ全体の質を底上げする効果があります。
最新版がどれか分かる状態にする
RAGを運用するうえで、 最新版がどれか分からない資料は大きなリスクになります。 同じテーマの資料が複数存在し、 どれが正なのか判断できない状態では、 AIも正しい答えを出せません。
そのため、資料には 「更新日」 「版数」 「有効期間」 といった情報を明示することが重要です。 これにより、RAG側でも 最新資料を優先的に参照する設計が可能になります。
また、古い資料を完全に削除できない場合でも、 参照対象から外す、 あるいは「旧版」であることが分かる表記を入れるだけで、 誤った引用を防ぐことができます。
社内AIにとって、 「どれが正しいか分からない状態」 は最も避けるべき状況です。 最新版が一目で分かる資料構造を作ることが、 RAG運用の前提条件になります。
Word / PDF / テキストの取り扱い実務

Word資料をそのまま使う場合の注意点
社内資料として最も多い形式の一つがWordファイルです。 RAGでは、Word資料をそのまま取り込むことも可能ですが、 構造を意識しないまま使うと精度が下がるという注意点があります。
特に問題になりやすいのが、 見出しの使い方が統一されていない資料です。 見出しが装飾として使われていたり、 本文と見出しの区別が曖昧だったりすると、 AIは文書構造を正しく理解できません。
RAG向けには、 見出しは見出し、本文は本文として 明確に役割を分けることが重要です。 Wordのスタイル機能を使って、 見出しレベルを整理するだけでも効果があります。
また、表や箇条書きが多用されている場合は、 文章として意味が通じるかどうかも確認が必要です。 人には分かりやすい表現でも、 AIにとっては前後関係が欠けた情報になることがあります。
PDF資料で起きやすい問題
PDFは配布や保存に便利な形式ですが、 RAGにとっては扱いが難しい資料形式の一つです。 特に注意すべきなのは、 レイアウト依存のPDFです。
段組み、図表、注釈が多いPDFでは、 文章の読み取り順が崩れることがあります。 その結果、文が途中で切れたり、 本来つながっている内容が分断されたりします。
また、スキャンしたPDFの場合、 文字認識(OCR)の精度にも左右されます。 誤認識が多いと、 検索結果にノイズが混じり、 引用として使いにくくなります。
PDFをRAGに使う場合は、 内容が文章中心かどうかを基準に判断することが重要です。 レイアウト情報が主な意味を持つ資料は、 別の形式での整理を検討した方が安全です。
テキスト化の判断基準
WordやPDFをそのまま使うか、 テキストに変換するかは、 資料の性質によって判断します。 重要なのは、 AIが意味を正しく理解できるかという観点です。
判断基準の一つは、 その資料を「文章として読めるかどうか」です。 文脈が文章で完結している資料は、 テキスト化しても意味が保たれます。
一方で、 表や図が前提となっている資料は、 テキスト化すると意味が失われることがあります。 その場合は、 説明文を補足したり、 別途ナレッジとして書き直す方が効果的です。
RAG向けの資料整備では、 すべてを無理に統一する必要はありません。 資料ごとに最適な形式を選ぶことが、 長期的に安定した運用につながります。
取り込み設計で失敗しないための考え方

最初から全資料を取り込まない
社内AIをRAGで構築する際、よくある失敗が 「とりあえず全部取り込む」という判断です。 一見すると網羅的で良さそうに見えますが、 実務では逆効果になることが少なくありません。
理由の一つは、 資料の質が混在していることです。 整備された規程やマニュアルと、 未整理のメモや古い資料が同時に取り込まれると、 AIはそれらを区別できません。
結果として、 重要なルールよりもノイズの多い文章が参照されたり、 例外的な内容が強調されたりする可能性があります。 これは、社内AIの信用を一気に下げる原因になります。
RAG導入の初期段階では、 「使わせたい資料」だけを厳選することが重要です。 業務で参照頻度が高く、 内容が比較的整理されている資料から始めることで、 成功体験を作りやすくなります。
その後、運用しながら 「この資料も使えそうだ」 「この資料は整理が必要だ」 と判断し、段階的に対象を広げていく方が、 結果的に安定した社内AIになります。
更新フローを前提に設計する
RAGを使った社内AIは、 一度作って終わりではありません。 資料が更新され続ける前提で設計することが不可欠です。
多くの社内AIが使われなくなる原因は、 「資料を更新したのにAIの回答が古いまま」 という状態が放置されることにあります。 一度でもこうしたズレが起きると、 利用者はAIを信用しなくなります。
そのため、取り込み設計では、 「誰が」「いつ」「どの資料を」 更新するのかを明確にし、 再取り込み(再インデックス)の流れを運用ルールとして決めておく必要があります。
技術的には自動化も可能ですが、 最初から完全自動を目指す必要はありません。 手動でもよいので、 更新時に必ずAI側に反映される仕組みを用意することが重要です。
RAGの設計は、 AIの設計であると同時に、 業務フローの設計でもあります。 更新を前提にした取り込み設計ができて初めて、 社内AIは長く使われる存在になります。
まとめ:社内AIは「資料整備プロジェクト」でもある
RAG導入は社内ナレッジを見直すチャンス
ここまで見てきたように、 RAGを前提とした社内AIの成否は、 AIモデルや技術選定よりも 社内資料の整備状況に大きく左右されます。
資料が整理されていなければ、 AIの回答は曖昧になり、 信用されない存在になります。 一方で、判断基準が明確に書かれた資料が整っていれば、 AIはそれを根拠として、 業務に使える回答を安定して返せるようになります。
この意味で、 社内AIの導入は単なるIT施策ではありません。 社内ナレッジをどう管理し、どう共有するかを見直すプロジェクトでもあります。
RAGを導入することで、 これまで暗黙知として扱われていたルールや判断基準を、 文章として明文化する必要が出てきます。 これは一時的には負荷になりますが、 結果として業務の属人化を減らし、 組織全体の再現性を高める効果があります。
ログを使った改善と運用
第4回では、 RAG前提で社内資料をどう整備し、 どのように取り込むべきかを整理しました。 しかし、資料を整備して取り込んだだけでは、 社内AIは完成しません。
実際の運用では、 「どんな質問が多いのか」 「どの資料がよく参照されているのか」 「どこで回答が詰まっているのか」 といった情報を把握し、 改善を続ける必要があります。
次回は、 社内AIのログをどう活用し、改善につなげるか というテーマを扱います。 RAGを「作って終わり」にしないための、 運用フェーズの考え方を解説していきます。
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